名古屋市立大学、なごやヘルスケアアートマネジメント連続講座 基礎講座 第2回「病院におけるアートディレクターの役割」

2019/7/18
名古屋市立大学、なごやヘルスケアアートマネジメント連続講座
基礎講座 第2回「病院におけるアートディレクターの役割」

こちらの講座は、名古屋市立大学の鈴木教授をリーダーにしたプロジェクト。文化庁のバックアップで、名古屋から「ヘルスケアアートの推進を行う」ことを目的とされています。全7回の連続講座の第2回目のレポート。

▶︎なごやヘルスケアアート・マネジメント推進プロジェクト
https://healthcare-art.net/

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今までの講座のレポート↓
▶︎キックオフ講座:
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=2279388855431299&set=a.214762548560617&type=3&theater

▶︎基礎講座 第1回「子どもと家族と療養環境 – 日英仏の事例から」
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=2282484441788407&set=a.214762548560617&type=3&theater
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今回は、私もホスピタルアートに実際に関わらせてもらった病院、大阪府堺市の耳原総合病院で「ホスピタルアートディレクター」として常勤されている室野愛子さんの講義。

全館アートに彩られた耳原総合病院

▶︎耳原総合病院
http://www.mimihara.or.jp/sogo/
耳原総合病院は2013年に新築建て替えされたばかりの新しい病院。高い天井のエントランスでは、天井からぶら下げられた大きなハートのアート作品が出迎えてくれます。(※写真の黄緑のオブジェ)

全館アートが施された、日本でも珍しい病院です。待合室の床にはタンポポの絵のタイルが埋め込まれ、霊安室は厳かな土壁、小児科にも、エレベーターホールにも、手術室前の廊下にも、ICUにも、階段にも、壁や柱には絵が描かれています。(※私の担当したアートはICU、精神科待合室、手術室前廊下)

ホスピタルアート導入に至った経緯は、新築建て替えの際に一人の看護師が「病院にアートを導入したい」と院長に提案したのがきっかけ。

室野さんは建て替えの初期段階から病院と関わって、コンセプトを立て、アーティストと交渉し、階ごとのカラー設計をしたり、壁紙の材質を選んだり、椅子の色をコーディネートしたり、院内に流す音楽を作ったりとなんだかもう病院に関するありとあらゆる色々なことをされています。

導入の初期段階の頃は、日本にホスピタルアートがそれほど広まっていなかったため、院長やスタッフさんに理解を得ながら、関係を作っていかれたんだろうなあと、お話を聞いてて、その苦労が伺えました。

ホスピタルアートディレクターの役割「病院の理念を見えるカタチにすること」


耳原総合病院は、元々は貧困で病院のなかった村の地域住民が、100円のカンパを持ち寄って建てられた診療所。貧困や飢餓がはびこる戦後の時代において、地位や階級に関係なくみんな平等に施しを受けられるべき。この病院は、そんな「無差別平等の医療」が理念としてあります。だから、一般的な病院では個室は追加料金がかかるのに、耳原さんは差額ベッド料が無料。

建て替えのアート導入の際にも、院長の意向を聞いて終わりじゃなく、そこで働く職員、地域住民も交えて議論の場を設け、何度もヒアリングされたそうです。

また、「ESの向上(職員の満足度)」もアートを導入する際の大切な要素。
私がアートを担当した時も、看護師さんや医師のみなさんにも筆を持ってもらって、一緒に描いてもらったのはその目的もありました。
職員も関わることで、自分の職場に愛着が持てるし、「この壁画はオペチームが案を出し合ってこんな想いが込められてるのよ」と物語を語れることで患者さんとの会話も生まれる。離職率の低減にも繋がります。

室野さんはそういった病院の理念をわかりやすく伝えるために、コンセプトを立て、絵本のような物語をつくられました。
「希望のともしび」
http://www.mimihara.or.jp/sogo/hospital/concept/

物語に登場するモチーフが、それぞれの象徴となっています。
「100円のカンパ=希望の芽、病院=大きく地域に根ざしたケヤキ、人々の涙=雨、病院に集まる人々=鳥(堺市の鳥:モズ)」
100円のカンパから始まった希望の芽が、人々の苦難の涙と、集う鳥たちによって大きなケヤキに育つお話です。

耳原総合病院の院内を歩くと、鳥の絵がたくさん飛んでいることに気づきます。病院の外壁には大きなケヤキがタイルで描かれています。エントランスに吊り下げられた大きなハートのオブジェは、地域の人々ひとりひとりにメッセージを書いてもらって、それを繋ぎ合わせて作られたアート作品。
これらすべてが、この物語から生み出されていて、病院全体を壮大な絵本の世界観のように仕立てているのだなあと思いました。

室野さんのお仕事は、初期段階に関わらず、現在も続いています。
例えば、病室に食事を運ぶ配膳車が角を曲がる時に壁によくぶつけてしまう。それを解決するために、曲がり角の床にお魚のイラストをシールで貼って、配膳車には猫のイラストを。猫とお魚が出会うところで舵を切ると、壁にぶつからずに曲がることができる。可愛くて、ユニークなアートでの解決方法。

大阪の病院だからこそ、少しクスッと笑える要素もあって、でも丁寧に丁寧に現場の声を聞いて、それをどう解決するのがベストかを真剣に考えていらっしゃるなあと思います。しかも病院の世界観を壊さないように、となると、アイデア出しもなかなか骨が折れるだろうなあ…。

私が思うホスピタルアートディレクターという職業


日本にはホスピタルアートディレクターが現在2名(ですよね?)
耳原総合病院の室野さんと、四国こどもとおとなの医療センターの森合音さん。
両者にお会いし、実際に病院の案内をしてもらい、考え方やお話を聞いたことがあります。

私はデザインの現場で長年働いていたので、その視点から話をすると、「ホスピタルアートディレクター」って「クリエイティブディレクター」と「アートディレクター」の両方を兼ねた人だと思っています。それの病院特化バージョン。

・クリエイティブディレクター(プランナー)
…依頼者から要望を聞いて、一番大切なことを見定め、世間への打ち出し方も含めた、コンセプトを作る人、言葉にする人。また、人の手配をする人。監督、指揮官。

・アートディレクター(デザイナー)
…上記の役割を兼ねることもあるけど、言葉ではなく、見た目、ビジュアル、世界観で視覚的に伝える人。絵にする人。ビジュアル方面での監督、指揮官。

「理念を見える形にする」仕事は、普段私が仕事でやってる「ブランディング」そのものだと思う。依頼主の要望を聞いて、何を一番大切にしているかを汲み取り、表現する。わかりやすく伝えるためにストーリーを作る。理念を色に表すと何色か、どんな肌触りか、どんな世界観か。フォントにするとどの書体?世間からどのような印象で覚えてもらいたいか、どんな空間を作りたいか。

クリエイティブディレクターやアートディレクターという職業の中でもいろんなタイプの人がいて、男性と女性では生み出すものがやっぱり違う。ユニクロみたいに機能的に見せ方を作る人もいれば、サントリー烏龍茶のCMのように世界観で引き込む人もいる。

森合音さんは、どちらかというと男性的で、機能美。ロジカルな印象でした。職員や利用者から出てくる要望を、リーダー的な立場で、様々なプロを巻き込みながら、人を監督しながら問題解決していく方。全員と家族的に関わっていく人。

室野さんは、女性的で、装飾美。病院全体を絵本を作るようにして一つの世界観を作りあげ、その場に行くだけで美しい世界に入り込んだような気持ちにさせてくれる、非日常を作るのが上手な方。室野さん自体がアーティストのような。

アートディレクターでいうと、佐藤可士和さんと森本千絵さんというか。ディーター・ラムスとウィリアム・モリスというか。(学がないのでこの例えがあっているのかはちょっと怪しいので誰か補足してほしいです…建築でいうと東京ミッドタウンと金沢21世紀美術館みたいなことでしょうか。非常にわかりにくく合っているかわからない例え。)

私は男性的なデザイナーなので、室野さんが作りだす絵本のようなディレクションは美しくて、憧れます。人には得手・不得手があって、依頼主である病院や院長の考え方や地域性によっても、求められるホスピタルアートが変わってくると思います。
将来的には、ホスピタルアートディレクターの中でもこの病院はこの人が向いてるな、とか、男性的ディレクターさんが指揮をとったとしても、感性的な方をサブディレクターとして迎えてバランスを取るとか、そんな仕事のやり方が仕組みとしてできてくるといいんだろうなあとぼんやり思いました。

どちらにしても、一面の壁画を書いて終わりじゃなく、病院全体の総合的なブランディング、プロデュースができると病院のあり方としてはさらに大きな役割が担えると思います。壮大な計画。でもきっとみんなが幸せになる世界。
あと、ワークショップを定期的に行うなどして、病院や患者さんと長期的に関われると環境から変えていけるような気がしています。

「一人にひとつ芸術を持つ」ススメ


室野さんが最後に提唱された言葉が素敵でした。

「自分の人生にひとつ芸術を持ってほしい」

例えば音楽を一つ、自分の技能として持っているだけで、怒りや悲しみを感じた時にそれを曲にして表現することができる。例えば絵を描ける人ならば、深い深い悲しみを絵にアウトプットするだけで、救われたりする。
私もずっと同じように考えていて、「めっちゃわかります!!!」と握手をしてきました。

生きていると、怒りを感じることってやっぱりあると思います。でもそこで感情のままに言葉にして怒鳴りつけてしまうと、相手も傷つくし、自分も一緒に傷ついてしまう。物に当たるのも同様です。お皿割っちゃたり、壁に穴を開けてしまったり。

そんな時に、芸術をひとつ持っておけば、誰も傷つけることがない。しかも生産的。
絵でも、歌でも、楽器でも、ダンスでも、言葉でも、写真でも、料理でもいいですね。何かひとつ感情の矛先を向けられる術を持っていることって大事だなと思いますし、そういう取り組みをワークショップを通じてやっていければいいなと思っています。

美大に入った時に何がびっくりしたって、陰口が全くなかったことなんですよね。全ての感情が作品に向けられているから、自分の制作するものに如実に考えが現れるし、他人を構ってる余裕がないというか、他人が気にならなくなる。いろんな人の考え方の多様性を認められるようになったのは、美大に行ったおかげだなと思っています。

室野さんとは京都の病院のアート、耳原さんのアートを描かせてもらってから、もう3〜4年ほどの付き合いです。おおらかで優しくて大好きなんだよなあ。耳原総合病院から受ける印象と室野さんの印象が似通っているのも、アートディレクターの手腕なのかなと感じました。講義できちんとお話を聞けてうれしかったです。ありがとうございました。

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