
耳原総合病院でICU(集中治療室)の壁画を描かせていただいたときのことです。当時の手記をそのまま転載します。
ICUでは、重病の患者さんはほとんど会話もできないし、意識も朦朧としていて、面会に来たご家族は話もできず、ただ側にいることしかできない。これから元気になるかどうかもわからない。
そんな場所に、青空が見える窓を描いてきました。
とても印象的だったのが、4日目の夕暮れ。
夕陽が差し込む場所でずっとベッドで横になっているお父さん(かな?)の面会に来ている娘さんがいらっしゃいました。
わたしが患者さんの頭側にある壁に絵を描こうとペコっと頭を下げて入室すると、娘さんもかすかに笑顔を見せてくれました。
こんな大事な時に中に入るのは悪いかなと思ったけど、制作時間の制限もあって肩身を狭くしながらハーブの絵を描き始めました。その間、描き始めから描き終わりまで、娘さんはずっと私が絵を描く様子を眺めておられました。私も背中ごしにその視線をずっと感じていました。
制作中は患者さんの方をあまり凝視してはいけないという取り決めがあったので何も聞かず何も見ず、ずっと背中を向けて淡々と絵を描いていたんだけど、そのときの私と娘さんの間には、心が通う瞬間が確かにあった…と思います。言葉はなくても。
ボランティアに来ていた友人がその様子を見ていたらしく、写真に収めたかった、というようなことを言っていました。
去り際に一度だけ「お邪魔しました」と声をかけるととても穏やかな笑顔で「ありがとうございました」と言われました。それ以外にも色々声をかけていただいたのだけどよく聞き取れなくて、私もなんと声をかけていいのかわからなくて「お大事になさってください、また明日続きを描きに来ますね」とだけ伝えました。
ICUに何日も患者としているのは決して良いことではなく、早く一般病棟に移るといいねと言えばよかったのか、でも明日には病状が悪くなっているのかもしれない、と考えると何と伝えるのが正しいのかわからなくて。
ただ、悲しみと疲れでいっぱいだった彼女の日常に少しでも息を抜く時間を届けられたのだと思うと胸が詰まる思いでした。
私はいつも通りただ絵を描いていただけなのに、そこに癒しを感じ、助けられたと言われた。今回描いたこの絵が、誰かの何かの支えになるのかもしれない。そう思うと、本当にこのホスピタルアートに関わることができてよかったと思います。絵を描ける自分でよかったって。
特殊な空間だったから色んなことを考えたけれど、背筋を伸ばして自分のできることを誠意を込めてやるしかないのかなと思います。元気になってほしい、その想いは絵に宿ると思う。この絵がスタッフの方、患者さんとご家族の方の癒しのカケラ、日常で息のできる空間になりますように。
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